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AIへの指示は、どこまで工夫する必要があるのでしょうか。
モデルが賢くなるたびに、以前覚えた書き方が今も役立つのか、迷う場面があるかもしれません。
「順を追って考えて」と付け加える。
完成例を見せる。
背景資料を渡してから、条件を指定する。
こうした方法を、経験則だけでなく、実験や比較を通して調べてきたのがプロンプト研究でした。
今回は、2024〜2026年に研究がどう増減したのかを、論文の件数と内容の両方から調べました。
件数はarXivの公開データを独自集計し、研究テーマはサーベイ論文と具体的な研究から読み解いています。
先に結果を述べると、今回の検索条件では、2025年に増加し、2026年1〜8月は前年同期より減少していました。
ただし、その数字だけでプロンプトを研究する必要性まで小さくなったとは判断できません。
何を数えた結果なのかを確認したうえで、研究の中身へ進んでみましょう。
まず、何を「プロンプトに関する論文」と数えたのか
プロンプトエンジニアリングは、AIに渡す指示や例、情報の構成を工夫し、目的に合う出力を得るための取り組みです。
ただ、関連する研究すべてが、論文のタイトルにこの言葉を使っているわけではありません。
たとえば、例の選び方を調べる研究なら「in-context learning」、指示の自動改善なら「prompt optimization」と表記されることもある。
検索する言葉やデータベースによって、見つかる範囲は変わってしまいます。
そこで今回は、対象をarXivに絞り、タイトルまたは要旨に英語の「prompt engineering」を含む論文を数えました。
大文字・小文字、空白・ハイフンの違いを揃え、初回投稿日で年を分けています。
改訂版を別の論文として重ねて数えることはしていません。
arXivは研究論文の公開基盤で、査読前の原稿も含まれます。
ここで示すのは、条件を揃えた観測結果であり、世界中の関連論文を網羅した総数ではありません。
件数の変化:2025年は増加、2026年は前年同期を下回った
調査日は2026年9月8日。
月の途中の数字を混ぜないよう、2026年は8月末までを集計対象にしました。
| 初回投稿年 | 1〜8月の件数 | 前年の1〜8月との比較 | 1〜12月の件数 |
|---|---|---|---|
| 2024年 | 379件 | — | 623件 |
| 2025年 | 589件 | +55.4% | 843件 |
| 2026年 | 416件 | −29.4% | 未確定 |
出典:arXiv APIで取得したメタデータの独自集計。
検索結果1,953件から指定語の表記を確認できなかった71件を除き、1,882件を採用しました。
取得・抽出条件は記事末尾に記載しています。
2024年から2025年への通年の増加率は、約35.3%でした。
一方、同じ1〜8月で比べると、2026年は2025年を下回った。
ただし、2024年の同期間と比べれば約9.8%多く、単純に研究がなくなっていく形でもありません。
ここで避けたいのは、2025年の通年843件と、2026年の途中経過416件をそのまま比較することです。
集計期間が違う数字から「半分に減った」と読んでしまうと、変化を大きく見誤るでしょう。
件数が減っても、研究の重要性が下がったとは言い切れない
今回確認できた減少は、特定の言葉を含むarXiv論文の件数についての事実です。
研究費、研究者数、実務での利用、関連分野全体の論文数まで測ったわけではありません。
また、指示の改善に関係する研究が、文脈管理やエージェントの評価という別の名称で発表される可能性もある。
ただし、今回の集計だけでは、そうした呼び方の変化が減少の原因だったかまでは確かめられません。
つまり、件数から分かることと、論文を読まなければ分からないことを分ける必要があります。
以下では研究内容を確認し、継続して取り組まれている課題を見ていきましょう。
テーマの並びは、分野全体の件数ランキングや被引用数ランキングを示したものではありません。
2024年:増えた技法を整理し、比べられるようにする
2024年の代表的なサーベイに、The Prompt Reportがあります。
初回版は、テキストを対象とした58のプロンプティング技法や、ほかの形式の入力を扱う技法を整理しました。The Prompt Report・2024年初回版
ここでいう58は、論文数ではなく、著者らが整理した技法の数です。
研究の件数と手法の種類を混同しないようにしておきましょう。
たとえば、少数の完成例を示す「Few-shot prompting」。
途中の考え方を含めて答えを導く「Chain-of-Thought」。
大きな依頼を小さな問題に分ける方法も、整理の対象になっていました。
読者にとって、この整理には実用的な意味があります。
名前の違う技法を次々に覚える前に、それが入力例を変える方法なのか、問題を分ける方法なのか、回答を検証する方法なのかを見分けられる。
自分の困りごとと、試す工夫を対応づけやすくなるでしょう。
なお、同論文は自動的な改善、RAG、エージェントも扱っていました。
そのため、「2024年は人が書くだけで、2025年に初めて自動化が始まった」という区切り方は適切ではありません。
2025年:プロンプトを自動で改善する仕組みを研究する
2025年には、自動プロンプトエンジニアリングを最適化問題として整理するサーベイが公開されました。
何を変更し、どんな基準で良し悪しを判定し、どの方法で改善案を探すかを、共通の枠組みで扱った研究でした。自動プロンプトエンジニアリングのサーベイ
この分野でいう「最適化」は、目的に合うプロンプトを、試行と評価によって探すことです。
AIが候補を作り、問題を解かせ、結果を評価し、その評価を次の修正に使う。
人が一文ずつ書き直す作業の一部を、改善の仕組みに組み込むわけです。
具体例として、2025年7月に初回版が公開されたGEPAがあります。
実行中の記録やツールの結果などを言葉で振り返り、失敗の原因を考え、プロンプトの変更案を作って試す手法でした。GEPA・2025年初回版
ここから読み取れる実務上の示唆は、改善案を作る役割と、改善を判定する役割を一緒に設計すること。
AIが書き換えた文章が立派に見えても、それだけでは元の指示より優れていると判断できません。
たとえば、問い合わせを分類する業務を考えてみてください。
通常の問い合わせだけで高得点になる指示より、複数の相談が混ざった問い合わせも正しく扱える指示が欲しい。
そのためには、どんな問い合わせで試すか、何を正解とするかを先に用意する必要があるでしょう。
自動化されたからこそ、評価に使う材料が、改善の方向を左右する。
この点が、2026年の研究にもつながっていきます。
推論の研究:以前うまくいった指示を、モデルが変わっても使えるか
もう一つ確認したいのが、Chain-of-Thought、略してCoTをめぐる検証です。
途中の推論を促す方法と、推論能力を備えたモデルに同じ指示を追加することは、分けて考えなければなりません。
Whartonの研究チームが2025年6月に公開した技術報告は、「段階的に考える」と促す指示の効果を、モデルや条件を変えて調べました。
対象は科学分野の難しい選択式問題198問で、各条件を25回ずつ試す構成でした。WhartonのCoT検証報告
報告では、o3-miniやo4-miniなどの推論モデルに追加指示を与えても、改善が限られ、時間の負担が増える場合が示されました。
ただし、これは当時のモデルと特定の問題・比較条件における結果。
CoT全般や、モデル内部で推論することが不要だと示したわけではありません。
利用者の判断が変わるのは、ここでしょう。
有名な一文を必ず付けるのではなく、通常の依頼と比べて、正答率、回答の安定性、所要時間がどう変わるかを確かめる。
モデルの更新後も、以前の成功例をそのまま正解とみなさない姿勢が必要になります。
文脈の研究:指示文と一緒に、資料・記憶・ツールの結果を扱う
指示を変えても改善しないとき、必要な情報がAIに渡っていないのかもしれません。
こうした問題を扱う領域として、コンテキストエンジニアリングを整理したサーベイが2025年7月に公開されました。
同論文は、文脈の検索・生成、処理、管理という要素を整理し、RAG、記憶の仕組み、ツールを使う推論、複数エージェントの構成などを扱っています。
指示の文面に加えて、実行時に利用する情報全体へ視野を広げた整理でした。コンテキストエンジニアリングのサーベイ
問い合わせの分類なら、分類の指示だけでなく、最新の商品一覧や、過去に判断を迷った事例も材料になるでしょう。
相談の途中で情報が追加されたなら、分類をやり直す必要もある。
一度作った文章の出来だけでは、こうした仕事全体の品質は決まりません。
この領域は、前の記事で扱ったナレッジエンジニアリングとも接続しています。
知識を整えておき、その中から今回の判断に必要な材料を選ぶ。
研究を追うときも、プロンプトという単語だけを探していては、この広がりを捉えきれないでしょう。
2026年:何をもって「改善した」と判定するかを掘り下げる
2026年1月のSESSという研究は、自動プロンプト最適化で使う評価例の選び方に注目しました。
限られた例で候補を評価するときに、どの例を選ぶかを設計し、数学や科学のベンチマークで検証したものです。SESSの論文
同年3月のPEEMは、回答の正誤に加え、指示の明確さや構造、回答の関連性や簡潔さなどを評価する枠組みを提案しました。
LLMを評価者として使い、点数と理由を出す方式でした。PEEMの論文
この二つは、改善の方法だけでなく、改善を導く評価そのものを研究対象にしています。
ただし、それぞれの実験で有効だった方法を、自社の業務にもそのまま使えるとは限りません。
評価するモデル、問題の種類、正解の決め方は確認が必要でしょう。
実務に取り入れるなら、試す問い合わせが普段の業務を代表しているかを確かめるところから。
加えて、分類が合っているか、根拠のない説明を加えていないか、追加確認が必要な案件を保留できるかも見てみてください。
点数が上がったという結果と、仕事に必要な条件を満たしたという判断は、同じとは限らない。
何を測るかが、どのプロンプトを採用するかにつながります。
継続して使うために:指示にも変更履歴と検証を持たせる
2026年9月2日に公開されたソフトウェア工学の研究提案では、プロンプトの標準化、評価、開発工程への組み込み、追跡可能性やガバナンスなどが課題として整理されました。
これは研究者らの議論からまとめた研究方針であり、導入効果を実証した実験論文ではありません。From Prompting to Engineering
また、9月公開のため、この記事の8月末までの件数集計には含めていません。
調査日時点で確認できる、新しい研究課題の一例として紹介しています。
この提案を職場に引き寄せるなら、誰かのチャットでうまくいった指示を、継続して使える状態へ整えることになるでしょう。
どのモデルで試したか、どんな入力で失敗したか、何を直したかを残す。
次に変更したとき、以前できていた仕事まで崩れていないか確かめる。
そうした記録があれば、担当者やモデルが変わったあとも、変更の理由を追いやすくなるはずです。
この変化から、何を学び続ければよいのか
今回の件数集計では、2025年までの増加と、2026年の前年同期比での減少が確認できました。
一方、論文の内容を読むと、指示の工夫を体系化する研究、自動で改善する研究、評価や文脈の設計を掘り下げる研究が続いていました。
ここから実務に持ち帰りたいのは、技法の名前を覚えることに加えて、改善を確かめる方法も身につけるという視点です。
同じ仕事で複数の指示を試し、使ったモデルと資料を記録する。
正答率だけでなく、ばらつき、確認の手間、所要時間まで見比べてみてください。
プロンプトにどんな一文を加えるか。
その問いに加えて、何を材料にし、何で評価し、変更後もどう確かめるかを考える。
2024〜2026年の研究を仕事に結びつけるとき、この広い見方が役立つのではないでしょうか。
お読みいただき、ありがとうございました。
調査方法と集計範囲
件数の調査日は2026年9月8日。
対象の初回投稿日は2024年1月1日〜2026年8月31日、UTC基準です。
- データ取得:arXiv API。タイトルまたは要旨を対象に「prompt engineering」で検索。
- 抽出:取得したタイトル・要旨に
\bprompt[\s-]+engineering\bが現れるレコードを採用。大文字・小文字を区別せず、語形の異なる検索結果など71件を除外。 - 集計単位:arXiv ID。同じIDの改訂版は重複計上せず、APIの初回投稿日で年を判定。
- 比較:2024・2025年は通年と1〜8月、2026年は1〜8月のみ。2026年の通年換算はしていない。
- 限界:現時点のタイトル・要旨による語句検索で、各年当時の表記を復元したものではない。応用論文も含み、別の語で書かれた関連研究やarXiv外の研究は含まない。別IDで登録された同一研究の意味上の重複は未判定。
- テーマ分析:サーベイと具体的な研究を読んだ編集上の整理。テーマ別論文数や被引用数による順位は算出していない。査読状況は論文ごとに異なる。
取得に用いた項目と検索方法はarXiv APIの仕様に従いました。
抽出前の検索条件は、arXiv APIのデータ取得URLから確認できます。
